The History of NISHITA & SIGGRAPH
The History of NISHITA & SIGGRAPH
西田所長とSIGGRAPHの足跡
2005年にCG界のノーベル賞と呼ばれている「クーンズ賞(The Steven A. Coons Award)」を受賞された「プロメテックCGリサーチ」の西田所長は、1970年来、半世紀にわたってコンピュータグラフィックス(CG)研究を行なってきました。
1974 年に第一回会議が開催されたSIGGRAPHは、それ以来、西田所長の研究生涯に特に大きな影響を与えています。そして今回、SIGGRAPH2019ではSIGGRAPH History Projectの一環として西田所長の長年のCG研究に関するインタビューが実施されました。そこで、これを機にSIGGRAPHと関連する西田所長の足跡をご紹介いたします。
プロメテックCGリサーチ 西田所長の略歴
1949年広島県生まれ。1998年から東京大学教授(2013年3月に定年退官し、その後名誉教授)。1970年からコンピュータグラフィックスの研究を始め、隠線消去、隠面消去、陰影表示などを研究。光の相互反射を計算してリアルな半影を描写する「ラジオシティ法」の考案者であり、その後も精力的な研究活動を続け、 2005年にSIGGRAPHのスティーブン・A・クーンズ賞、2006年にNICOGRAPHのCG-Japan Awardを受賞しました。こうした功績を記念して2006年に、画像電子学会において、CG関連の優秀論文の著者に与えられる「西田賞」が創設されました。なお、2005年よりプロメテック・ソフトウェア株式会社の技術顧問として事業運営に助言いただいています。
SIGGRAPHとは
SIGGRAPH(シーグラフ、Special Interest Group on Computer GRAPHics)とは、アメリカコンピュータ学会におけるコンピュータグラフィックス (CG) を扱うSIG(分科会)であり、また同分科会が主催する国際会議・展覧会の一つである“International Conference and Exhibition on Computer Graphics and Interactive Techniques”の通称です。創設は1967年で、1974年に第1回会議が開催されました。2008年からは、冬にアジア地域においてSIGGRAPH ASIAが開催されています。
出典:「SIGGRAPH」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/SIGGRAPH
Table of Contents
論文のみならず多くの部門で関連する西田所長とSIGGRAPH
CG分野では、SIGGRAPHやEUROGRAPHICSがトップコンファレンスとされています。これらはコンファレンスですが、学会誌も発刊されるため、研究者たちにとって重要な論文投稿先となっています。また、SIGGRAPHにある論文が数少ない日本においては、SIGGRAPH発表は「生涯の夢」とも言われています。
SIGGRAPHへの種々の貢献(1981年-2019年までの38年間)
西田所長は、論文のみでなく、アートショー作品、動画、裏表紙への掲載など、他分野でもSIGGRAPHに数多く採択されています。
西田所長の論文などのSIGGRAPH採択の推移
西田所長は、SIGGRAPHに1982年から35回、SIGGRAPH Asiaに2007 年から10回参加しています。
年表を見る
YEAR | AGE(西田氏の年齢) | Accepted to SIGGRAPH | ATTEND |
---|---|---|---|
1981 | 32 | Back cover | 0 |
1982 | 33 | Art show | 1 |
1983 | 34 | Electric Theater | 0 |
1984 | 35 | Electric Theater | 0 |
1985 | 36 | Paper on radiosity, Electric Theater,extended light sources(Tog) | 1 |
1986 | 37 | Paper on skylight, montage, Electric Theater、Back cover | 1 |
1987 | 38 | Paper on Atmospheric Scattering, Electric Theater、Back cover | 1 |
1988 | 39 | – | 1 |
1989 | 40 | Paper on landscape、Back cover | 1 |
1990 | 41 | Paper on ray tracing, Drive Simulators, Electric Theater、Back cover | 1 |
1991 | 42 | Electric Theater | 1 |
1992 | 43 | – | 1 |
1993 | 44 | Paper on earth, Electric Theater、Back cover, Course | 1 |
1994 | 45 | Paper on caustic, Cloud Formation, Back cover, cover of CD | 1 |
1995 | 46 | – | 1 |
1996 | 47 | Paper on clouds | 1 |
1997 | 48 | – | 1 |
1998 | 49 | – | 1 |
1999 | 50 | ‐ (東大に移籍) | 1 |
2000 | 51 | Paper on shaft of light. Sketchs | 1 |
2001 | 52 | Sketchs | 1 |
2002 | 53 | – | 1 |
2003 | 54 | Paper on sound, Sketchs | 1 |
2004 | 55 | Poster | 1 |
2005 | 56 | Emarging Tech. Sketches, Poster, Coons award | 1 |
2006 | 57 | Sketches | 1 |
2007 | 58 | Skeches, Poster | 2 |
2008 | 59 | Paper on clouds, camera, Talk | 2 |
2009 | 60 | Poster, Sketches | 2 |
2010 | 61 | Paper on Participating Media, Skeches | 2 |
2011 | 62 | Sketch | 2 |
2012 | 63 | Paper on Material Editing, clouds, Technical Brief | 1 |
2013 | 64 | Poster (東大退職) | 2 |
2014 | 65 | Paper on Desired Caustics, Posters,Technical Briefs | 2 |
2015 | 66 | Paper on Legolization, Panel | 2 |
2016 | 67 | Posters | 2 |
2017 | 68 | Technical Briefs | 2 |
2018 | 69 | Paper on Fabricating Reflectors, Turbulence Style Transfer, SIGGRAPH Academy | 2 |
2019 | 70 | Paper on editing fluid, Interview | 1 |
SIGGRAPHでは、1981年に裏表紙、1982年にアートショー、1983年および1984年はElectric Theater(映像)と、10年間継続的に採択されました。論文は1985年から5年、Electric Theaterは1983年から5年連続採択されています。3年間空白の年もありますが、1985年からの35年間で23論文(Tog含む)が採択されています。
※年表上で、参加が「2」の年はSIGGAPH Asiaにも参加しています。
採択論文の代表的画像(23論文)
SIGGRAPH Papers
SIGGRAPHの論文誌のBack Coverに選ばれた画像(1981年以来、9件)
1982年のSIGGRAPH Art Showで採択された世界最初の線光源(ソフトシャドー)
1982年、ボストンで開催されたSIGGRAPH Art Showで、世界最初の線光源(ソフトシャドー)が採択されました。会場では、等照度分布を重ねた画像とともに2枚の画像が展示されました。
1982年に投稿されたこの線光源の論文は、なぜか査読に3年もの期間を要しました。そして、その後、1985年の論文誌TOGに採択されることになりました。ところが、1984年に公表された光源に関する論文では、この1985年の西田所長の論文が引用されていました。
(左:直射光のみ、右:相互反射考慮)
SIGGRAPH のElectric Theaterに採択された動画
Our 8 animation films (1983, 1984, 1985, 1986, 1987, 1990, 1991, 1993) are screened.
Emerging Technologiesでの展示
SIGGRAPHのEmerging TechnologiesおよびVRST2006で、「カヌーで水面をこぐVRシステム(水をかき混ぜると流体による反発力を生成し、その力が手に伝わる)」を展示しました。
SIGGRAPH Asia2017でのパネルディスカッション
ユニティ・テクノロジーズとの共同ブース出展(SIGGRAPH Asia2017)
SIGGRAPHが変えた西田所長の人生
クーンズ賞をはじめとする数々の受賞歴
西田所長は、2005年にCG界のノーベル賞と呼ばれている「クーンズ賞(The Steven A. Coons Award)」を受賞しました。この受賞は世界で12人目で、日本はもとよりアジアで初の受賞者(2019年時点でもアジア唯一の受賞者)となりました。
クーンズ賞は、2年に1度、長年にわたってコンピュータ・グラフィックス(CG)界へ大きな貢献を続けてきた研究者に与えられるもので、アメリカコンピュータ学会が主催する世界的なコンピュータグラフィックス (CG)のコンファレンスであるSIGGRAPHが研究者を対象に設けている3つの賞のうち、最も権威がある賞です。
同賞の第一回受賞者はCGの生みの親と言われるアイバン・サザランドで、第2回の受賞者はベジェ曲線の考案者として著名なピエール・ベジェ氏、また、これまでの受賞者には、アニメーション制作会社ピクサーの創始者であるエドウィン・キャットマル氏なども含まれています。
さらに西田所長は、SIGGRAPHでの活躍により「紫綬褒章」を受章されているほか、「Life-Time Achievement Award(Asia Graphicsより授賞)」や「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2018」など、数多くの賞を受賞しています。
授賞式と同日の同じセッション内で行われたため、集客力が大きく、3万人近くの来場がありました。
写真左は、アニメーション制作会社ピクサーの創始者であるエドウィン・キャットマル氏。
SIGGRAPHの各賞を受賞した東京大学の偉業
ACM SIGGRAPHには5種類の賞があります。そのなかでも、特に権威があるのが2年に1人授賞されるクーンズ賞(The Steven A. Coons Award)で、長年の貢献者に与えられるものです。また、The Significant New Researcher Awardは若手の研究賞に与えられる奨励賞のようなもので、The Distinguished Artist Awardは最近できた賞で芸術家に与えられるものです。 東京大学では、2005年に西田所長がクーンズ賞、2006年に五十嵐健夫氏がThe Significant New Researcher Award、2011年に河口洋一郎氏がThe Distinguished Artist Awardと、アジアで唯一、3つの賞を受賞しています。
2017年にAsia GraphicsからLifetime Achievement Awardを授賞
2017 年10月17日に台北(台湾)で開催されたPacific Graphics 2017において、西田所長は「Life-Time Achievement Award」を受賞しました。
2016年にアジアにおけるCGのコミュニティとしてAsia Graphicsという組織が創立されて以来、西田所長はAsia Graphicsから授与される「Lifetime Achievement Award」の初代受賞者となりました。
WIRED Audi INNOVATION AWARD 2018を受賞
2018年に、西田所長はWIREDの「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2018」を受賞しました。
「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2018」は、イノベーションと未来に向けた革新をもたらした人物が選出されており、20名ほどが受賞しています。
SIGGRAPH2018でACM SIGGRAPH Academyに選出
バンクーバー(カナダ)で開催されたSIGGRAPH 2018において、西田所長は「ACM SIGGRAPH Academy」の会員に選出されました。
「ACM SIGGRAPH Academy」とは、コンピュータグラフィックスやインタラクティブテクニックの分野に多大な貢献をした研究者、技術者、アーティスト、デザイナーや教育者などが選出されるもので、いわゆるCG界の殿堂入りに等しいものです。
設立初年度となる2018年は、the Stephen A. Coons Award, the Computer Graphics Achievement Award, the Distinguished Artist Award for Lifetime Achievement in Digital Artのいずれかを受賞している50名程度が選出されました。
この「ACM SIGGRAPH Academy」には、西田所長をはじめ、Ivan E. Sutherland氏、Ed Catmull氏、Nelson Max氏、John Warnock氏、Jos Stam氏、Thomas W. Sederberg氏、Ken Perlin氏、Ramesh Raskar氏など錚々たるメンバーが選出されています。
SIGGRAPH HISTORY PROJECTのインタビュー
SIGGRAPH2019では、SIGGRAPH History Projectの一環として、ともにクーンズ賞の受賞者である西田所長(2005年受賞)とネルソン教授(2007年受賞)のインタビューが行われました。インタビューでは、CG研究を始めたきっかけや両者の出会い、印象に残っているこれまでの出来事などが語られました。
インタビュー内容
- CGを始めたきっかけ
- ネルソン教授はハーバード大の学部生のとき、西田所長は広島大の卒研で。
- 互いに知り合ったのは
- ネルソン教授が1983年に広島大を訪問した際に。
- 日本と米国の研究体制の違い
- SIGGRAPHへの最初の参加
- ネルソン教授は1970年、西田所長は1982年から。
- 研究の共通点
- 照明モデル、自然物の表示
- ネルソン教授の1981年の動画「Carla’s Island (1981)」
- 世界的に初めての自然物を扱う動画。まだカラーフレームバッファーがなく、モニターで画像が見えない時代にフィルムに焼き付けていました。西田所長はこの動画が刺激になり、雲や水など自然物の研究を開始しました。
西田所長の印象に残る話題
- 広島大学では、1970年に中前栄八朗教授によって、電気機器の製図という目的でXYプロッターで描画することが試みられました。当初は、ラインプリンターの重ね印字で濃淡を表現していました。1970年代、大学に1台しかない計算機を利用していた西田所長でしたが、1979年にカラーCRTが導入されると西田所長の研究は本格的に進んでいきました(この装置を使用するために、西田所長は企業から大学に転職しました)。
- 西田所長は、大学時代に「隠線消去問題」の論文を、大学院時代には「陰影処理」の論文を書きました(これはかなり珍しいことでした)。この頃は、カラーモニターがなくプロッタで絵を描いていました。博士課程がなかったため、西田所長は一度、会社に就職しましたが、のちに指導教授がカラーフレームバッファーを手に入れたので、西田所長は大学に転職しました。最初にカラーに挑戦したのは、「点光源による照明シミュレーション」でした。そして、1981年にはその研究成果がSIGGRAPHの論文集の裏表紙に採択されました。
- ネルソン教授は、1983年の広島訪問時に西田所長の相互反射画像を見て、同様の研究を行なうことを諦めました。これは、コーネル大学より先に西田所長がラジオシティ法を開発していた証拠です。
- ネルソン教授は、2003年に西田研に滞在し、大学院生の指導を手伝いました。また、ネルソン教授と共同で、西田所長は2つの論文を書きました。
- 西田所長がクーンズ賞を受賞した年の基調講演は、映画「スター・ウォーズ(Star Wars)』の監督であるジョージ・ルーカス氏でした。同氏の直前が西田所長の受賞講演だったこともあり、講演前には長蛇の行列ができていて西田所長は感激しました。
論文数などのSIGGRAPH関連の統計
Top Conferenceにおける西田所長の採録論文数の推移
2年間空白となっている年もありますが、西田所長は1984年から2019年の間、安定して論文を発表しています。1984年から35年間でTop Conference 43論文で、年平均で1論文以上となっています。
SIGGRAPH 採録論文数の変遷(1974年~2017年)
1980年代は全体の論文数が少ないことから、記憶してもらえる登壇者が何人かいましたが、現在は登壇者が100人を超えるため、誰が発表したかはなかなか記憶してもらえないような状況となっています。また、1980年代は登壇者は座長といっしょに朝食をとる形式でした。西田所長は、当時、座長をされるような歴史的著名人に事前に会えることに非常に感激し、モチベーションが上がったそうです。